慶大ら,自由行動中の霊長類脳深部神経活動を可視化

慶應義塾大学と米スタンフォード大学の研究グループは,小型蛍光顕微鏡を用いて自由行動中のマーモセット脳深部神経活動の可視化に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。

マーモセットはヒトに類似した高い社会性,認知行動,運動制御能を有しており,神経科学のモデル動物として近年注目されている。これまで,脳深部の神経活動を大規模に計測するためには2光子顕微鏡が使用されてきたが,動物の頭部を装置に固定する必要があったため,複雑な動作や社会行動を行なわせながら神経活動を計測することはできなかった。

研究チームが開発したInscopix社のnVistaと呼ばれるわずか2gの超小型蛍光顕微鏡は,内視鏡レンズを脳に埋植することで脳深部の神経活動を自由行動環境下で計測することができる。研究ではマーモセット大脳皮質運動野の深部(脳表から約2000μm)の神経細胞活動を,自由行動環境下で計測することに成功した。

その結果,運動野の80-240個の神経細胞を同時記録することができた。このマーモセットが随意運動するときに実際に運動野の神経細胞の活動が計測されるか検証したところ,マーモセットがレバーを引く課題を行なうと運動野の神経活動が計測データで確認された。

さらに,自由行動環境下における運動野の神経活動を計測するために,樹上生活性であるマーモセットがはしごを登っているときの神経活動の計測データの解析により,手がはしごを掴むタイミングで活動する神経細胞を同定した。

これらの神経細胞一つ一つが運動制御にどのように関与するか検証を行なうために,マーモセットが左右に手を伸ばす課題を行なったところ,手を伸ばす方向によって神経細胞が活動パターンを変化させる「方向選択性」をもつことがわかった。これらの脳神経活動をもとにマーモセットが手を伸ばす方向を予測する計算モデルを作成したところ,高確率で実際の到達方向を予測することに成功した。

この内視鏡レンズを用いた観察手法は,より脳の深部に位置する大脳基底核や海馬などの領域における観察にも応用が可能であり,運動や認知,記憶などの霊長類における複雑な脳機能に関わる神経ネットワークの研究の有力なツールとなる。さらに精神・神経疾患モデルマーモセットに対し適用することで,ヒトにおける精神・神経疾患の新たな治療へ展開されることが期待されるとしている。

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