学振シンポに見る,紫外発光デバイス技術と市場の課題

「2日間を是非楽しんで欲しい」と開会の挨拶をする,上智大学教授の岸野克巳委員長

日本学術振興会 ワイドギャップ半導体・電子デバイス第162委員会は,9月27日,28日の二日間にわたり,第110回研究会・特別公開シンポジウム「紫外発光デバイスの最前線と将来展望」を,東京大学生産技術研究所コンベンションホールにて開催した。

このシンポジウムは深紫外線LEDおよびレーザーの開発動向を中心に発表を行なうもので,約180名が参加した。2日間で10本の講演とパネル討論会,若手研究者による35本のポスターセッションおよび,ナイトライド・セミコンダクターとLGイノテックによる深紫外LEDと応用製品の企業展示も行なわれた。

約180名の参加者が集まった

シンポジウムは理化学研究所の平山秀樹氏の講演「深紫外LEDの課題,進展と将来展望」によって幕が切って落とされた。この講演は深紫外LEDに期待される応用とその市場についての概観を示すとともに,実用化にあたって最大の課題となる高効率化を実現するために,内部量子効率,電子注入効率,光取出し効率のそれぞれの課題と見通しについて解説した。

続いては三重大学教授の三宅秀人氏が「AlNテンプレート高品質化の進展」について解説した。高効率AlGaN深紫外LEDを作製するためには高品質AlN/サファイアテンプレートが求められるが,サファイア基板のAlN膜は格子不整合により高密度な貫通転移が発生する問題があった。これに対して三宅氏は,スパッタ法と高温アニールによって簡便に低転位密度(108cm-2台前半)のAlN膜が作製可能なことを報告した。

東北大学教授の秩父重英氏は,「AlN,AlGaN薄膜および量子井戸の発光特性」と題して講演を行なった。ここでは,AlGaN紫外発光デバイスの室温における発光内部量子効率を制限している要因を明らかにするとともに,それを改善するための手法について考察した。具体的な評価方法および,AlN単膜の発光特性や形成される点欠陥などについて詳細な解説を行なった。

初日の最後は大阪大学の森勇介教授が「波長変換による全固体紫外レーザー光源の進展とその応用」と題して講演を行なった。森氏は非線形光学結晶CLBO(CsLiB6O10)を発明し,深紫外波長域の固体レーザーの実用化に大きな役割を果たしている。ここでは,その開発から実用化に至るまでの物語や,今後,同レーザーによる検査装置が期待されるEUV市場について,ベンチャー設立など具体的な体験を交えた語り口で会場の注目を集めた。

初日の最後は,ポスターセッション会場に場所を移し,若手研究者による発表に対して活発に討論が行なわれた。その後は意見交換会が行なわれ,参加した産学の関係者が親睦を深めた。

二日目は大学や研究機関に加え,企業からも発表があった。まずは名城大学准教授の岩谷素顕氏が「AlGaNドーピング技術と紫外レーザの進展」について発表をした。紫外半導体レーザーはその実用化が強く求められているものの,現状はキャリア注入,特にp型伝導性制御に課題がある。ここではこの解決を試みる様々な研究を解説したほか,ハイパワー化のための新たなアプローチである電子線励起レーザーのアイデアを紹介した。

トクヤマの永島徹氏は「深紫外LEDのためのHVPEバルクAlN基板の進展」を紹介した。同社は2017年,深紫外LEDの技術と製造設備をスタンレー電気に売却したが,AlN基板については開発を継続している。同社はHVPE法によるAlN基板を開発しており,1inchウエハで試作したLEDが267nm,50mWで動作することを確認している。今後は実用サイズ(2inch)ウエハの実現と成長速度を高めることで量産と低価格化を目指す。

日亜化学工業からは「直接接合を用いた深紫外LEDの光取出し効率の改善」について,市川将嗣氏より講演があった。深紫外LEDの大きな問題点の一つに光取出し効率がある。同社は東北大学と共同で,可視光LEDで用いられる光取出し技術の応用を検討した。その結果,いわゆる「砲弾型」LEDにその可能性を見出し,透明モールド材の代わりとなるガラス材料のADB法による接着によって,光取出し効率2.5倍を達成した。

「UV-LEDはUVランプ代替のみならず可視光LEDも置き換える」と挑戦的なタイトルで講演したのはナイトライド・セミコンダクター社長の村本宜彦氏。同社は深紫外LEDの開発と製品化を行なっているが,ここでは紫外LEDの市場が限定的である理由をビジネス面から解説するとともに,今後の起爆剤として同社が力を入れているマイクロUV-LEDを紹介し,UV光を可視光に変換するマイクロLEDディスプレーの優位性と,他の光源としても期待ができる技術であることをアピールした。

旭化成の久世直洋氏は「バルクAlN基板上深紫外LEDの進展と応用展開」と題して講演を行なった。同社は米Crystal IS(CIS)を2011年に買収して深紫外LEDの開発に参入しているが,今年,265nmで最大出力が50mWの深紫外LED「Klaran-WD」を発表し,これを組み込んだ水浄化装置「Klaran-AKR」を上市した。ここではこの装置による世界戦略とロードマップ,このLEDを実現したCISのAlN基板の特性などについて紹介があった。

講演の最後は,韓国LG InnotekのOh Jeong-Tak氏が「高出力Deep-UV LEDの現状と今後の展望」について解説した。同社は2017年に278nm,100mW級の深紫外LEDを発表し,業界予想を2年前倒しにする成果だと評価された。さらに2018年中には150mW,そして2021年には300mWを達成するとしたロードマップを紹介し,同社の先進性を改めて印象づけた。同社LEDの高いパワーは縦型構造によるものだが,そのためのサファイア基板を剥離するプロセスは日本では確立しておらず,理研の平山氏が「非常に高い技術だ」と高く評価したほか,Oh氏が回答を避けるような技術的な質問も多数浴びせられた。

その後予定されていたパネル討論は,市場調査会社である富士キメラ総研の安田燎平氏の講演「UV-C LED市場の最新動向と今後の展開」の後に質疑応答の形で行なわれた。

青色LEDは新興国の大量生産によって低価格化が急速に進み,発明国の日本でも,ビジネスとしては旨味の残るものではなかった。深紫外LEDでも同様の事象は起きつつあり,UV-Cにおいても厳しい値下げ要請があること,今年から来年にかけて中国や台湾のメーカーが市場参入する予定であること,AlN基板についても10万円台の製品が出てきていること,UV-Aの低出力LEDではチップ単価が10円ほどにまで崩れていることが紹介されると,会場からはため息交じりの声が漏れた。

同氏は日本のLED産業が水平分業となっていることに苦戦の一因があるとし,チップからパッケージング,モジュール化までを手掛けることでより高い競争力を持てるのではないかと,韓国のLEDメーカーが除菌や消臭用の家電も手掛けていることを引き合いにして提案した。

これに対して参加者からは反論を含めて様々な意見が上がったが,深紫外LEDならではの新たなアプリケーションが求められるということでは意見が一致した。一方で,中国や台湾のメーカーの市場参入が目前であること,AlN基板や低出力UV-AのLEDの低価格化が始まってることに,深紫外線LEDの研究が青色LEDの轍を踏むことを危惧する声も聞かれた。

厳しい現実となる内容もあったものの,市場の動向を知ることなく研究を進めていれば井の中の蛙となりかねない。今回のシンポジウムは,研究者が自らの研究と市場との位置関係を確認すると共に,最新の技術情報を交換する貴重な機会となったのではないであろうか。こうした交流を重ねることで日本の深紫外デバイスの研究と産業が両輪となり,世界をリードしていくことが期待される。

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