東大,コロイドの結晶化に溶媒の寄与を否定

東京大学の研究グループは,独自のシミュレーション手法により,溶媒の運動はコロイドのブラウン運動にしか寄与せず,結晶核形成頻度にはほとんど影響しないことを明らかにした(ニュースリリース)。

コロイド分散系は,光学顕微鏡でその運動を1粒子解像度で詳細に観察できることから,結晶化をはじめとする物性物理学のモデル系として注目を浴びてきた。コロイド分散系の中でも最も単純な系である剛体球コロイド系に関して,数値シミュレーション結果と光散乱実験の結果の間に,十桁を超える結晶核生成頻度の相違が見出されており,長年の未解決問題となっていた。

この乖離の原因を解明すべく,これまでに多くの理論的な研究が行われてきた。例えば,結晶核の形状や結晶多型に注目したもの,結晶核形成の前駆体が結晶核形成頻度に与える影響を調べた研究や重力やコロイドの粒径分散性といった実験の非理想性を考慮した研究などが挙げられる。

その中でも「溶媒の運動がコロイドの結晶化を促進する」という説が有力視されていた。しかし,これまでに関連する研究が2件発表されたものの,一方では結晶化を促進する,他方では結晶化を阻害するという相反する主張がなされており,混沌とした状況が続いていた。

今回,研究グループは,流体力学方程式の直接的な計算に基づく独自の数値シミュレーション手法(流体粒子動力学法:FPD法)を用いて,剛体球コロイドの結晶化のダイナミクスに関する研究を行なった。

この手法は,溶媒の運動の計算を,非圧縮性の流体力学方程式の直接的な計算に基づいて行なうことから,恣意的な仮定を含まずに,第一原理的に数値シミュレーションを実行することが可能である。FPD法により得られた結果を,溶媒の運動の自由度を無視したコロイドのシミュレーション手法(ブラウン動力学法:BD法,分子動力学法:MD法)の結果と比較した。

その結果,溶媒の運動が介在することにより,コロイドのブラウン運動が遅くなるものの,この運動を特徴づける時間スケール(長時間拡散時間)を時間単位に選ぶことにより,FPD法,BD法,MD法すべての結晶核形成頻度が,ほぼ完全に合致することが明らかとなった。このことから,実験・シミュレーション間の結晶核形成頻度の十桁にも及ぶ乖離の起源として,溶媒の寄与によるという説は棄却された。

この結果は,上述の結晶核形成頻度に関する長年の問題の解決に手がかりを与えるだけでなく,タンパク質溶液系など,液体中で結晶化が進行する系における結晶化の過程の理解に大きく貢献するものと期待されるという。

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