名大ら,グラフェンで半永久電子源用基板を開発

名古屋大学,米ロスアラモス国立研究所,高エネルギー加速器研究機構,分子科学研究所らの共同研究グループは,グラフェンを用いて半永久的に再利用可能な光電陰極電子源用基板の開発に成功した(ニュースリリース)。

アルカリ金属を基本材料とした高性能光電陰極は,放射線検出器や高感度撮像機器の光電陰極として広く利用されており,セシウム,カリウムとアンチモンの化合物(CsK2Sb)は,大強度や短パルスが容易に実現できる緑色レーザー(532nm)の波長で高い量子効率が得られる。

CsK2Sb光電陰極の性能は基板の表面状態に大きく影響され,一度基板上に光電陰極の薄膜を形成すると,光電陰極物質と基板表面との間で強固な化学結合が形成されるため,加熱などでの除去は難しく,光電陰極が劣化した場合は基板の交換が不可欠だった。

研究では,超高真空中に実装されたCs,K,Sbそれぞれの蒸着源を利用し,半分だけグラフェンで覆われたシリコン(Si),およびモリブデン(Mo)基板を準備し,500℃で1時間の加熱による表面清浄化プロセス後にそれぞれの基板上にCsK2Sb光電陰極を形成した。

そして,光電陰極成膜後に基板を再び500℃加熱,CsK2Sb光電陰極を形成したところ,グラフェンで覆った基板上に形成した光電陰極のQEは再利用前の基板とほぼ同等だった。一方,同じ条件でSiおよびMo基板上に形成した光電陰極のQEは大幅に低下した。

400℃および500℃で1時間の加熱洗浄後の光電面の残留物を定量的に評価したところ,500℃の加熱でグラフェン基板上からSb,K,およびCsは完全に除去され,一方,SiおよびMo基板上では同じ条件でこれらの元素が残留していることが判明した。

光電陰極物質とグラフェンあるいはSiの元素間の結合力について計算したところ,Si(100)表面の場合の結合エネルギーに対し,グラフェン表面では大幅に弱く,実験結果と良い一致を示した。さらに,グラフェン上に光電陰極を成膜,熱洗浄プロセスを繰り返し実施した基板にはダメージがほとんど無いことを確認した。

この結果から,グラフェンコーティングされた基板表面は化学的,熱的に非常に安定でかつ良好な光電陰極成膜が可能であり,活性な光電陰極物質も500℃程度の加熱で容易に繰り返し除去できることから,半永久的再利用可能な基板だとする。

この基板の開発によってより容易に高性能光電陰極を利用できる環境が整うほか,グラフェンコーティングは表面の保護および表面の加熱による容易な再生,長寿命化が期待できるとしている。

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