半導体レーザー

図5
図5

このためには,原子が規則正しく並ぶように,原子層を順次,積み重ねることで,このような構造を作ることができます。実際の半導体レーザーの構造を図5に描いてあります。外部から電流を流し,図の上と下のクラッド層(n型半導体とp型半導体)から電子と正孔を注入し,活性層で再結合させることによって発光させます。

では,実際の半導体レーザーの作り方を見てみましょう。


図6
図6

通常は,図6のように,基板と呼ばれる結晶を持ってきて,その上に数μmの厚さの膜を順次つける,いわゆるエピタキシャル成長法が採用されます。そのやり方に2種類あり,分子を蒸発させて,順次積み重ねる分子線エピタキシャル成長法(MBE)と有機金属を熱で分解し,望みの組成の膜を堆積させる有機金属気相成長法(MOCVD)があります。

その際,できるだけ完全な結晶薄膜を作るためには,堆積させる薄膜の原子配列(原子の間隔と並び方)に近い基板結晶が必要になります。


図7
図7

基板結晶と薄膜の原子間隔が大きく異なると,薄膜中に欠陥(原子の並び方の不規則性)や不純物が入りやすくなり,その結果,図7のように,バンドギャップ内にエネルギー準位を作る場合があります。このような構造は,価電子帯と伝導体の間の発光を利用しようとする場合,本来の発光以外の余分な過程が生じる結果,発光効率が下がることになります。

今までは,シリコンを例に挙げてお話を進めてきました。ところが,シリコンは,発光効率が極めて低く,発光デバイスには適していないのです。シリコンでも電子と正孔の再結合が起こりますが,その時に光ではなく熱としてエネルギーを放出します。発光デバイスとしては,GaAs(ガリウムヒ素:Eg=1.43 eV),InP(インジウムリン:Eg=1.35 eV)などの化合物半導体が使われます。周期表のIII族とV族原子の組み合わせでできていますので,III-V半導体とも呼ばれています。

このような化合物半導体の特徴は,2種類以上の化合物を混ぜて,その比を調整することによって,バンドギャップエネルギーを変えることが可能なことです。原子比(組成比)を変えることで,発光波長を変えることも可能なのです。

例えば,GaAsのGa原子の一部をAlで置き換えることで,1.43~2.16 eVの範囲でバンドギャップエネルギーを変えることができます。実際の組成は,AlxGa1-xAs(x=0~1)であり,AlとGaの比を変えることによってバンドギャップエネルギーを変えることができます。


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