人体の深部イメージングや微細がんの発見に光─AMEDが生体イメージング研究の成果を発表

■深部の微小がんの発見
がん診断を可能にする機能性光音響プローブ 出所:JST
がん診断を可能にする機能性光音響プローブ
出所:JST

光イメージングは光が届きにくい体内深部の診断が不得意だが,がんが微小であれば,なおさらその発見は困難となる。これを克服する技術として期待されているのが光超音波(音響)画像技術だ。

光超音波画像技術とは,生体組織にパルスレーザーを当てたとき,生体内の光吸収体が光エネルギーを吸収し,熱弾性過程により発する応力波(超音波)を検出することで,光吸収体の体内での位置情報が分かるというもの。

光だけでは到達しない深部を見ることができるほか,超音波診断画像を重畳することで機能情報と形態情報の両方を一度に取得できるなど,他のイメージング技術では難しかった情報を得ることができるが,レーザー光源においては繰り返しやエネルギーの問題があるほか,超音波センサーも特有の問題が残っているという。研究を進める防衛医科大学校教授の石原美弥氏は,特に普及用製品の技術開発では新たな市場形成の可能性もあるとして,企業に協力を求めている。

この技術ではプローブとなる光吸収体の開発も,実用化に向けたもう一つ重要なカギとなる。

京都大学教授の寺西利治氏は,可視・近赤外領域に大きな吸収を持つプラズモンナノ粒子を開発している。これは多面体Auナノ粒子やITOナノ粒子,CuxSナノディスクで,形状や大きさを精密に制御しながら合成することで,吸収波長を精密にコントロールすることができる。既に多様な形状・サイズのナノ粒子の合成に成功しており,何らかの方法でがんに取り込ませることができれば,光超音波(音響)画像技術との組み合わせで体内深部のがんの検出に威力を発揮することが期待できる。

東京大学教授の浦野泰照氏は,プローブをがん部位に選択的に取り込ませることで,小さながんでも正確に見つけることができる技術を研究している。従来のがん検出プローブは,がん部位以外も取り込んでしまうため,微小がんのイメージングは難しかった。

開発した蛍光プローブは,がん細胞内で活性化しているGGTという酵素に反応して蛍光放つもので,振りかけるだけで微小がんも見つけることができる。既に試薬の合成や安全性試験などに取り掛かっており,今後は内視鏡など体内蛍光観察医療機器や体外蛍光観察装置と組み合わせた診断について企業との協業を求めている。

■酸素イメージングによるがんの発見
これまでに報告されている代表的な発光性酸素プローブ 出所:JST
これまでに報告されている代表的な発光性酸素プローブ
出所:JST

群馬大学教授の飛田成史氏は,生体内の酸素濃度の違いからがんを見つけるアプローチを紹介した。

がん細胞は成長が早く,血管の生成が追いつかないため組織内は低酸素状態になる。体内の酸素が少ない場所を知ることができれば,がんの発見が期待できる。一方,生体内に適用できる既存の酸素測定法はいくつかあるが,いずれも侵襲性や解像度の問題があった。

そこで飛田氏は,新たに期待されている光学的手法として,りん光性試薬をプローブとして生体に注入して励起光を当てる方法を提案した。りん光性試薬は,酸素の多い部分で消光するのに対し,がんの疑いのある酸素の少ない部分では発光する。

これまでにも発光性酸素プローブはいくつか報告されているが,細胞内に入りづらいという問題があった。

そこで今回,イリジウム錯体を用いたプローブを新たに開発した。イリジウム錯体は細胞との親和性が高く,発光波長を近赤外化して生体の透過性を高めることや,目的に合わせて特性を変えることができる。

深部組織を観察するために長波長化したプローブを用いてマウスによる腫瘍のイメージング実験を行なったところ,6〜7 mmの深さの腫瘍を見ることがきた。実用化にはプローブの更なる高効率化や結果の定量化が必要となるが,こうした研究と共に,イメージングシステムに興味がある企業と開発を行ないたいとしている。