分光計測技術の最近の動向

3. 赤外分光

FTIRは各社とも極めて高品質な商品を提供しており,コストパフォーマンスという点では依然FTIRに勝るものはない。FTIRにおける最近の話題はイメージングであろう。革新的なものはあまりないが,測定時間などにおいて進歩がみられる。最近,超小型中赤外フーリエ分光イメージユニットが開発された(香川大,石丸,アオイ電子)。この装置はドローン搭載も可能である。

図2 超小型近赤外フーリエ分光イメージユニット(アオイ電子)を用いてin situで測定したメダカの卵の心拍(関学,石垣ら)
図2 超小型近赤外フーリエ分光イメージユニット(アオイ電子)を用いてin situで測定したメダカの卵の心拍(関学,石垣ら)

また,近赤外域でも測定が可能で,石垣ら(関学大)はこの装置を用いてメダカの卵の心拍をin situでとらえた(図2)。これから期待されるのは,3次元赤外(近赤外)イメージングである。基礎研究は進みつつある。深さ方向分析の進歩も期待したい。

赤外分光法で注目されるのは,マルチチャンネルMCT検出器を用いた赤外分光とQCLレーザーを用いた赤外分光であろう。赤外域でのマルチチャンネル検出器はかなり以前から米軍で開発され使われていた。最近,市販されるようになったが,やや高価なのが欠点である。マルチチャンネルMCT検出器の場合,光源はグローバル光源を用いる。QCLレーザーを用いた赤外分光ではシングルMCT検出器で十分であるが,QCLレーザーが高価なのが欠点である。もっとも性能そのものは非常に良くなっている。QCL赤外イメージングなども市販されそうである。

赤外でもう一つ,注目されるのはナノスケールの赤外分光法(ナノIR)である。目下の主力は,s-SNOM(散乱型近接場赤外顕微鏡)とAFM-IRである。後者は光熱変換現象を利用し,赤外吸収を試料の熱膨張として検出する。進歩も著しく,空間分解能もチップの先端径程度20 nmぐらいのところまで来ている。最近ナノIRの応用も進み,ポリマー,医薬品,半導体など幅広く応用されている。厚みのある試料の分析にも使われつつある。またAFM-IRとs-SNOMを一台で測定できる装置やコンパクトな装置も市販された。今後,カンチレバーの更なる改良などが望まれる。

ハイフネーテッド技術関連の興味深いものに,HTX Technology社で開発された新型のLC-Transformシステムがある。このシステムは,高い効率でHPLC及びGPCからの移動相を取り込み,Geディスクゲットへサンプルのデポジットを行い,FTIRやラマン分光器での測定が容易に出来るインターフェースシステムである。

4. 近赤外分光

近赤外分光の進歩で注目されるのは数多くあるが,中でも注目されるのは,近赤外カメラであろう。二次元画素数が増えて性能が上がり,しかも価格が下がるという状況になってきている。解像度も上がるし波数分解能も上がる近赤外装置が期待できる。実際わずか2,3秒で広帯域の近赤外イメージングが測定できる装置も市販された。近赤外域におけるレーザー分光も大きく発展してきている。親指サイズで1500−1800 nmの領域で50 nm可変波長幅で使用できるcwレーザーも開発された(横河電機)。ガス分析等で活躍しそうである。近赤外では専用器の進歩も注目されるところである。製薬関連では,粉体混合モニタリング,結晶化プロセスモニタリング専用器なども出ている。もちろん一般のプロセス専用機は数多く市販されている。製紙業で使うモニタリング専用器なども販売されている。

近赤外に限らないが,ハンドヘルド分光装置の大きな進歩が注目される。近赤外,赤外,ラマンのほかにx-線のものもある。これらはいずれもいろいろな現場分析で活躍が始まっている。工場,農場,建築現場などにおける分析,科学捜査,環境分析のほか美容分析などにも使えよう。ハンドヘルドの装置は,以前は性能において一般のものに比べてかなり見劣りしたが,今ではかなり満足な性能が出るものも多い。ポータブルでは近赤外イメージング装置も開発された(横河電機)。上記の分析のほか薬品分析にも応用できよう。ラマンと赤外の両方が一台で測定できる装置も市販された(ThermoFisher)。犯罪捜査など現場での物質の同定などには力を発揮しそうである。

近年,光音響法が赤外,近赤外で再び注目されている。AEROVIA社は光音響法を利用した装置QCNoseを開発した。この装置では,ヘルムホルツ共鳴型の試料セルに光の導入窓を設け,変調した赤外光もしくは近赤外光をこの窓材を通して照射し,試料が光を吸収し熱膨張した様子を2つのマイクロフォンを用いて音の信号として計測する。ここで用いる光源は,ダイオードレーザーやQCLであり,試料化合物に固有の線幅の狭い波長を選択できる。

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